「年齢を重ねると肌のシミやくすみを隠す為に明るい色味を身につけるんだって、知ってた?」
知らなかったよ!知っててもそんなの知らないよ!
鏡の前で何度も合わせてみるけど決まらない
ピンクにしようかグリーンにしようか迷う
30を過ぎた辺りから派手な色や柄を好んで身に付けるようになっている
別に若く見られたいとか
肌が荒れてるなんて気にした事無いんだけど無意識のうちにそうなっている
朝から鏡に向かってあーでもないしこーでもないと考え込んでいたら
ボブがリードを喰わえてやってきた
「早く散歩に行こうぜ」と待ちきれない様子で地団駄踏んでは僕に熱い視線を投げつける
「はいはい分かりましたから、もう行きますから、その前にトイレ入ってからね。」
脚にまとわりつきながら急かすボブに言い聞かせてトイレに入る
ゆっくりとトイレにも入れやしない
人
生
は
幸 間
せ 違
探 い
し 探
の し
旅 な
な ん
ん か
だ じ
ゃ
み な
つ い
を
ち
ゃ
ん
あらそうなのね、壁に貼ってある日めくりカレンダーを声に出して読み
急いで用を済ましウォシュレットの水の冷たさにヒヤッとした
いつまでも夏なんだなと思ってたけど暦の上ではもう9月
ひっそりと秋はやって来てるんだ
そして僕らの夏は終わるんだ可愛いあの子を連れ去って
初めて君に出会ったのは桜舞い散る2月
沖縄の桜は1月頃から咲き始め2月には散り3月にはもう海開き
一瞬のうちに消えて行く春を掴まえたくて
公園を吹き抜けるさわやかな風を胸いっぱいに吸い込んで
いつものようにボブを連れて散歩してると
池のほとりで一人背中を丸めて桜の花びらをつまらなそうな顔で眺めてる君がいた
すれ違い様に目と目が合い僕は吸い込まれるように彼女の隣に座り
お互い言葉を交わす事無く膝を抱えてぼんやりと淡いピンクの桜を眺めてた
彼女はいきなり僕の膝の辺りに抱きついて泣き出した
僕は黙って彼女の頭を撫でてあげたり背中をさすったりで
何て声をかけたらいいのか分からなかった
それから彼女とはたまに公園で会うようになり
木陰で二人ふざけ合ったり、じゃれ合ったり、愛し合ったり、夢を語り合った
「いつかこの公園の中にお店を作りたいんだよ」って話したら
彼女も喜んで応援してくれると約束してくれた
僕は嬉しくて彼女の為にもがむしゃらになって働いては夢を見てた
ささやかだけど小さな幸せを抱きしめて毎晩ベットに潜り込んだ
ある日を境に彼女は僕の前から姿を消した
毎日公園を歩いては彼女を探した
落としたコンタクトレンズを探すように公園の隅から隅まで歩いては彼女を探した
僕は彼女を通して夢を見てたんだ彼女がいない今、世界はぼんやりぼやけてて
仕事は手につかず、食事も喉を通らない
さよならも言わずに立ち去った君は僕を一人公園に置き去りに
抜け殻になった僕は公園の中を彷徨い歩く幽霊になった
やがて暑い夏が過ぎウォシュレットの水が身に沁みる秋が来た
トイレを出てボブに睨まれながら慌てて着替える
ショッキングピンクのTシャツかライムグリーンのシャツを着ようか
悩んだあげくショッキングピンクのTシャツの上から
ライムグリーンのシャツを羽織って家を出た
この優柔不断な性格が彼女を不安にさせてしまったのだろうかと
自己嫌悪にもなるけれど、そんな事は横に置いといて先に進む
何でもめんどくさい事は後回しにしてしまう
そんな自分も嫌いだ
人目を気にしつつもまだTシャツを脱ごうかシャツを脱ごうか迷いながら
ブツブツと公園を歩いていたら
ベンチに座り赤ちゃんを抱きかかえこっちを見てる君の姿が飛び込んで来た
憂鬱そうな瞳も優しい母の眼差しに変わり彼女の周りには穏やかな空気が流れてて
まるで別人のように君は変わってた
僕はギュッとボブのリードを引っ張って走って公園を飛び出した
溢れ出る涙を何度も何度も手で拭い
目の前の現実から逃れるように全力で走って逃げた
君の寂しげな瞳も、丸くて小さな鼻も、ピンとした耳も、
ペッタンコな胸も、意地悪な指先も、柔らかくて優しい声も
全てが僕の物だと信じてた
津波のように押し寄せる彼女の笑顔が
空っぽの頭に満ちてきて一杯になり僕は立ち止まった
彼女が幸せならそれはそれで祝福してあげようじゃないか
最後に何か彼女にしてあげられる事は無いかと
コンビニへ駆け込みカルカンを買って彼女の元へ
おめでとうミーちゃん君はもう独ぼっちなんかじゃないね
野良猫ミーちゃんに子供ができた
しばらく見なかったのでどっかに行ったんだと思ってたら
ひょっこりと現れて3匹の子猫の母親になってた
ボブと一緒だったので子供達は逃げてった
可愛すぎて一匹貰おうか迷うけど離ればなれにするのもかわいそうだし
ボブが仲良くしてくれるだろうか?
こいつ次第だな
あいうえお散歩
かきくけ公園
さしすせ空を見上げて
たちつてトボトボ
なにぬねのらねこ
はひふへほんとは
まみむめもう少し早く君に出会えていたら
や ゆ よかったのにな
らりるれロックンロール
ワオーン